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ドイツの法改正と日本の家裁改革
2010年11月30日
控訴人訴訟代理人弁護士後 藤 富 士 子
日本の家庭裁判所が「死に体」の如き状態であることは、ドイツの法改正につい
て見れば、明らかである。これとの比較で、日本の家裁改革案として現実的なのは、
家裁裁判官を専門裁判官として教育し、調査官制度を廃止し、「子ども代理人」制
度を創設することと思われる。
そこで、ドイツの法改正につき、一部重複するところもあるが、下記のとおり主
張する。

ドイツ民法の親権法制は、日本の現行民法と同じものであったが、1976年
の法改正前は、父母間で親権の帰属について意見が一致しないときに、裁判所が決
める基準として、「子の福祉」と並んで、「婚姻破綻についての有責性」を親権の単
独帰属の判断基準としてあげていた。ところが、同改正によって、離婚法で完全破
綻主義が採用されるに至ると、婚姻破綻の有責性を親権者の決定基準にできないこ
とになり、裁判所は「すべての事情を顧慮して子の福祉に最も良く合致する取決め
を行う」とされた。すなわち「子の最善の利益」の基準である。
これに連動して、家庭裁判所制度を導入した。その目的は、①専門裁判官とし
ての家庭裁判官制度を設け、専門教育を受けること、②婚姻事件および関連事件を
同一家庭裁判官に集中すること、③離婚事件の一回的解決の要請から、附帯処分も
同時に弁論を行い、同時に裁判することである。このために生み出された制度が
「手続の結合」である。概略、日本の現行制度に似ている。
続いて1979年に親権法の全面改正がされ、「親権」という用語は「親の配
慮」という用語に変更された。その立法過程で、離婚後の共同配慮に賛成する見
解も存在したが否定され、離婚により共同配慮は現実的でなくなり、子に明確な
生活関係を確保すべきだとする見解に基づき、単独配慮制が維持された。この当
時、ゴールドスティンらの『子の福祉を超えて―精神分析と良識による監護紛争
の解決』の影響が強く、子にとっての特定の関係人(例えば父母や兄弟姉妹)と
の絆=心理的親子関係が重視されて、面接交渉でさえ子の忠誠葛藤を引き起こす
とされ、子の監護決定は最終的な確定力をもって行われるべきだと主張された。
すなわち、単独配慮の帰属に当たって、「主たる養育者の重視(主たる養育者とし
ては事実上母が多かった)理論」が席巻したのである。
ところが、1982年11月3日、連邦憲法裁判所は、離婚後の親の単独配慮
規定は、基本法第6条2項1文(子の養育および教育は、両親の自然の権利であ
り、かつ、何よりもまず両親に課せられている義務である。その実行に対しては、
国家共同社会がこれを監視する)に抵触し、無効であるとする違憲判決を下した。
それは、父母が共同配慮に合意する場合でも必ず単独でなければならないとする
ことが違憲であり、共同配慮は例外的なものだと考えられていた。つまり、原則
共同配慮というのではなく、共同配慮が可能になったということである。このよ
うな経過を経て、1997年の現行法への改正がされた。
1997年の改正により「両親は、未成年の子を配慮する義務を負い、かつ権
利を有する。親の配慮は、子の身上のための配慮と子の財産のための配慮を含
む」という現行法になった。この規定の意味は、①両親による共同性、②全体性、
③義務性、④第三者に対する絶対性、⑤人格性、⑥監督性、⑦理念性、⑧名誉性、
⑨実用性、⑩社会的親の権限強化、⑪漸進性、であるという。①は、父母間に婚
姻関係がなくても共同配慮であり、日本の民法(常に単独親権)と対照的である。
④については、親の配慮は子との関係では義務性をもつが、第三者に対しては親
の配慮権は絶対的効力を有する。⑤は、親の配慮は、最高の人格的権利で、この
権利は放棄できない。この性格ゆえに、別居・離婚後の単独配慮や養子縁組の同
意など親の配慮を自ら手放すときに親同士の同意では足りず、裁判所の司法判断
を要する。
この改正の目的として挙げられているのは、①子の権利の改善・子の福祉の促
進、②子の福祉に合致する限りでの親の法的地位の強化、とりわけ不必要な国家
の干渉からの保護、③嫡出子と非嫡出子の法的差別の撤廃、④不必要な重複や二
重規定を回避して簡明化を図ることとされている。ここで注目されるのは、19
79年法に大きな影響を及ぼした「主たる養育者の重視(事実上母が多かった)」
理論と並んで、他方の親の重視、夫婦は離婚しても子にとって父母であるという
ことに変わりはないという考え方が重視されるようになったことである。この結
果、父母間の親の配慮をめぐる争いが激化して長期化すると危惧された離婚手続
と親の配慮の帰属決定の強制結合は廃止され、父母が離婚後も共同配慮を継続す
るということで合意している限り、裁判所はその合意に干渉しないという共同配
慮を原則とする改正が行われたのである。
一方、父母が配慮内容について合意ができないときには、解決が裁判所に持ち
込まれる。裁判所は、父母の主張を聴くほか、子どもの意見を聴取した上で判断
を下す。子どもの意見聴取は、子どもの権利条約第12条に基づくもので、「手続
保護人」制度が導入された。「子どもの意思の尊重」と「手続保護人」制度につい
ては、佐々木論文に詳しい(甲107の1、2、甲108)。
大森啓子弁護士のデュッセルドルフ訪問記(甲109)によれば、①面会交流は通
常は2週間に1度とイースターやクリスマスに別途というもので、子どもが幼い
場合には週2回など、より頻繁に面会する、②DVケースについて、夫婦間だけ
でなく子どもに対してDVがあったケースでも、直ちに面会交流が否定されるこ
とにはならず、付添人をつけた上で監督付面会交流が実施される、③手続保護人
による子の意思調査は、親のいない場所で子どもと2~10回(1回1時間)の
面接を行って報告書をまとめる、④合意に至らない場合や合意の履行がされない
場合、支援機関の援助を受けて協議による実現を図ったり、裁判所へ申立てるこ
とになるが、裁判所の決定が履行されない場合には、金銭的制裁が科されるほか、
合意や審判で定められた事項を履行しないことを理由に配慮権を取り上げるケー
スもある、という。
このように見てくると、ドイツとアメリカでは、制度の姿は異なっているに
しても、「子育てする親の権利」と父母の自主的解決の尊重、また「子の最善の
利益」についても、両親の養育を受けることが望ましいとしていることは共通
している。
被控訴人代理人は、控訴人代理人が家裁調査官の専門性に疑問を呈したこと
を非難するようであるが、善良な市民である親から親権や監護権を剥奪するな
どという畏れおおいことを、ルーティンワークとしてやっているのだから、有
害無益と言うほかない。
大森弁護士も、日本では、単独親権制度の結果、離婚後も父母ともに親として
の権利と義務を負うという自覚と、子どもの福祉の視点に立った柔軟な解決が
見失われているという。本件でも、控訴人が子どもたちと会うために、どれだ
け多数の手続を経てきたか、それにもかかわらず会えないし、離婚訴訟の親権
者指定の帰趨も判らない。離婚は夫婦にとっては清算の意味合いを持つが、子
どもに対しては今後のあり方を定める家族の再構築の意義をもつから、無用な
紛争を防ぐためにも共同親権制度が必要である。
(以 上)

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