kネット会員によるハーグ条約についてのパブリックコメントを紹介します。

「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(仮称)」についての意見書

私の実体験を踏まえたご意見を述べさせていただきます。平成21年12月19日、日本からフランスへ妻(フランス人)の実家に冬期休暇を2週間の予定で出発いたしました。そこで私を待ち受けていたのは想像を絶する妻による子供の奪取計画でした。

妻が勝手に日本国から連れ出したわけではございません。家族4人(子供2人と妻と私)で2週間の里帰りに同意の上渡仏いたしました。そして、その3日後にはフランスの地方裁判所を通じて、妻より離婚申し立て書を送達官より手渡されました。
その後、フランスでの裁判出席を余儀なくされ、日本での勤め先を退職せざるをえなくなり、日本を家族の定住地としながらフランスで裁判をすることになりました。そこで出た判決は子供が小さいため妻の実家に同居しなさいというものでした。その理由は、日本はハーグ条約に加盟していないので、子供を日本に連れ帰ってもフランス国家は子供をフランスに引きもどす手立てはないというものでした。
それ以後は、子供との面会も妻の実家の中のみで外に連れ出す事を禁止する、判決が続いて出ました。そのために子供と会うためにはフランスに行くしかなく、それも妻の実家の中(アパート住まいの一室)だけでの面会が続いております。(一度だけ、例外的に近くの公園で2時間ほど面会できた事がありました。その時も地元の警察が数人私の行動を監視するという周囲からみれば物々しいある種異常な状態でありました。)年に2回ほど子供たちに会いに行っておりますが、日本で仕事をすれば、その様に頻繁に行き来する事は非常に困難です。フランス国内でしか面会できない状態ですから、せめてその時には監視のないごく普通な状態で面会ができる事を強く望んでいます。フランスのみで居住し教育を受けている状態では、父親の母国である言葉・文化に触れる機会を失い父方の親族とのコミュニケーションもままなりません。それは子供たちの将来に取っても非常に大きな損失であります。そういった事態にもぜひ対処をしていただきたいです。(日本語教育等)
フランスの裁判の進捗状態が極めて遅く、判決が出るまで何年かかるのか皆目分からない状態で、その長い間、子供たちと私の関係はこの不条理な状態が続いていくのです。これは幼い子供たちの父親としては耐えられません。

そこで、①日本がハーグ条約に未加盟であることにより生じる問題及び②子の「奪取」行為の射程について、以下意見を申し上げます。

まず、①日本がハーグ条約に未加盟であることにより生じる問題として、フランスのある裁判官は日本国がハーグ条約に加盟していない事を理由に、フランス国外(子の故郷でもある日本)での父子の面接交渉はもとより、フランス国内ですら私と子供の外での面会は認めていません。私が子を日本へ連れ去った場合に法的強制力をもって子をフランスに連れ戻す手段がないことを警戒しているものと思われます。これでは、子供との良質な親子関係を築いていく事は非常に困難です。フランスの裁判官がそのような性悪説に立って父子関係を捉えていること自体が極めて遺憾ですが、そもそもの背景事情として、日本がハーグ条約に未加盟であり、世界の先進国の趨勢と比較しても子の福祉への関心が薄い国家であると考えられている点が挙げられます。そのような理由からも、一刻も早く、日本のハーグ条約への加盟を推進いたします。

次に、②ハーグ条約が対象とする子の「奪取」について拡大解釈が必要である点について申し上げます。今回のハーグ条約が想定している子の奪取というのが一般的には暴力や相手の隙を見て連れ去る方法で子供を海外に連れ出すことを念頭においていると思われるので、国外に家族皆で帰省に出ることを「一応は」納得して出た結果、海外の家に立てこもって戻らない、という私の事例がハーグ条約における「奪取」の射程に含まれるのかは疑問が残ります。
しかしながら、ハーグ条約の趣旨が子の福祉の保護にあることに鑑みれば、奪取の手段がたとえ暴力や連れ去りではなく詐術であったとしても、子の福祉に与える悪影響の点では実質的には子供を連れ去ったのと同じです。したがって、ハーグ条約におけるこの「奪取」という行為には、一連の行為態様を全体的に観察して詐術による子の国外への連れ去りと評価できる場合も含まれるよう、十分に広範な定義がなされる事を強く願います。また、このような事例も存在する事を皆様にご理解していただける事を願ってやみません。どうかご検討のほどよろしくお願い申し上げます。

繰り返しになりますが、以上のようにフランス・地方裁判所の判決の基準となっておりますハーグ条約未加盟の有無という個人ではどうしようもない事情で、子供と日本国の親との面会ができなくなるという理不尽な事態が生じておりますことをご理解いただけないでしょうか。日本国民の一人として強くこのような事態が起こらないように取り決めをして頂きたいと願ってやみません。

どうか、よろしくお願い申し上げます。

広島在住・男性・34歳