面会交流のリーフレットについての要望書

面会交流のリーフレットについての要望書

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要望書を昨日法務省に送りました。

面会交流のリーフレットについての要望書

2012年4月3日

法務大臣 小川敏夫 様
法務省民事局長 原優 様
法務省民事局参事官室 御中

東京都国立市東3-17-11.B-202
TEL 03-6226-5419
共同親権運動ネットワーク

 日々法曹の向上に努められておりますこと、

ありがとうございます。
 私たちは、主に離婚をきっかけとして子どもと交流することが困難になっている親たちのグループです。この度、民法766条の改正に伴い、「子の監護をすべき者」のほかに、「父又は母と子との面会及びその他の交流」、「子の監護に要する費用の分担」という文言が挿入されました。施行にあたり、法務省民事局参事官室は、「夫婦が離婚をするときに~子どものために話し合っておくこと~」、「面会交流1~子どもたちのすこやかな成長をねがって~」、「面会交流2~実りある親子の交流を続けるために~」という3種類の面会交流についてのリーフレットを公表しました。
 未だかつて、裁判所以外の国家機関が、面会交流をもっぱらの対象として啓発した発行物を公表したことが皆無であることを考えると、今回のリーフレットの公表は、21世紀も12年も経ってのこととはいえ、日本の歴史上初めてのことであり、画期的と評価しております。
 しかしながら、実際に片親疎外によって親子交流を絶たれ、あるいは、家庭裁判所を通した不自由な決定によって、困難な中で面会交流を続けている私たちから見て、これらリーフレットの内容は、現実にそぐわない点、あるいは決定的な部分で重大な懸念があります。このリーフレットを利用しての啓発については、以下の点について指摘した上で要望いたします。

1 「面会交流」という用語の定義について
 3種類のリーフレットは共通して、「面会交流」について、「夫婦が離婚などにより離れて暮らすことになってからも、一緒に暮らしていない親と子どもが会ったり、電話や手紙などで定期的、継続的に交流を保つこと」と説明しています。また、「面会交流2~実りある親子の交流を続けるために~」においては、子どもが会いたくないと言った場合、「子どもの気持ちを尊重して」、しばらくの間、直接会う方法から手紙などの間接的な方法に切り替えることが、良好な親子関係を築いていく上で望ましい場合もあることを述べています。
 私たちは「電話や手紙などで」のみ定期的、継続的に交流することを「面会交流」と呼ぶことは、「実りある親子の交流」を作るためにはかえって逆効果だと思います。また、面会交流がうまくいかないからといって、安易に間接的な方法に切り替えることには反対です。
 特に、同居親の拒否感情が子どもが「会いたくない」と言い出す原因である場合、「子どもの気持ちを尊重した」直接の交流の中断は、子どもに自分の意思で親を捨てさせる結果にもつながりかねず残酷です。その場合、「面会交流1~子どもたちのすこやかな成長をねがって~」にあるように、同居親本人が子どもが会いたくない理由を聞き出せると考えることは、現実的ではありません。また、離婚に親どうしの対立感情があるのは当たり前ですが、子どもが同居親の感情を反映して面会交流に消極的になった場合、手紙や電話での交流によって、別居親子の関係を改善することは、別居親にとって極めて困難であるだけでなく、子どもをさらなる「板挟み」の状態に置くことになりかねません。もちろん、「親同士が冷静に話し合う」ことは、そのような状態に至るまでには通常難しくなっており、現実的でもありません。言うまでもないことですが、親をまだ認識できない幼児にとっては、電話や手紙は何の意味もありません。それで親子を引き離すとしたら虐待です。
 参事官室の定義は、子どもの権利条約9条3項、「締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する」という条文の趣旨からも外れています。
 アメリカでは1980年にカリフォルニア州で民法が改正され、「両親が別居あるいは結婚を解消した後に未成年の子どもに、両親との頻繁かつ継続的な接触を維持するのが州の公共政策である」という条文が追加されました。その後共同養育も含め、離婚後に多様な養育形態をとることが法的に可能になりました。子どもの権利条約やアメリカにおける民法改正、共同親権の世界的な広がりは、ジュディス・ウォラーシュタインらの離婚家族を対象とする実証研究の成果を反映したものです。参事官室のリーフレットの他の部分は、こういった実証研究の成果を反映したことが伺えます。日本でも益子行弘らが、片親疎外の悪影響についての研究成果を新聞に公表しています(資料1)。面会交流に対する強制力が法的に弱いとはいっても、「頻繁で継続的な直接の接触」をないがしろにする啓発は、離婚後の多くの子どもを不安定な立場に置き、結果良好な親子関係を築く障害にもなりえます。
面会交流が「子どもの成長のために行うもの」であることはその通りですが、同時に「別居親の子育ての時間」であることをリーフレットに明記してください。電話や手紙、学校行事への参加などは、「その他の子の監護について必要な事項」ではありますが、直接の接触に代わる代替的なものとはなりえません。子どもが「会いたくない」と言っても、安定的な直接の交流が継続的に維持された中で、必要なら第三者の関与を得つつ、関係の改善は図られるべきです。「面会交流」の定義から、手紙や電話での交流は外してください。
 
2 面会交流の方法について
 3つの面会交流についてのリーフレットは、至る所で子どものために親同士が協力していくことが触れられています。私たちはこのことについて否定はしませんが、具体的にどのようなことをすれば協力になるのかが問題です。
 別居親の同居親への拒否感情が仮に強くても、受け渡しさえされれば面会交流ができるにもかかわらず、同居親の別居親への拒否感情がある場合には、容易に面会交流が不履行となることを考えると、両者を同列に扱い協力関係を強調することは公平ではありません。単独親権制度のもと、日本の家庭裁判所は親権の有無を理由とする面会拒否を正当化してきました。これは、2010年度の面会交流の申立件数7001件のうち、認容あるいは調停成立が4320件で62%。このうち月に1回以上の面会交流の回数が決まるのは、2299件で53%。申し立てたうち月に1回以上の取り決めができるのが32%と3人に1人に止まることからも明らかです。残りは年数回や長期休暇中のみの交流しか認められていません。この中には、間接的な面会交流として、年に3回写真を送付するというような決定も頻繁になされていることが、私たちのもとに報告されています。申し立てたうち、宿泊付きの面会交流が取り決められるのは572件で8%。1割にも満たない数値です。以前よりは家裁が面会交流に積極的になったとはいえ、子どもに会いたいと思って家裁に申し立てても、家裁に行けば子どもに会えるようになるというにはほど遠い現状です。
 このような現実のもと、「面会交流に決まった方法はなく、面会、宿泊、学校行事への参加、電話や手紙等での交流など、そのときどきの状況により最も適した方法を選択します」という説明は、家庭裁判所が同居親の拒否感情の強さに応じた、限定的な面会交流を取り決めさせるエクスキューズにはなりえても、原則的な基準として、「頻繁で継続的な直接の接触」を子どもの利益として確立することの障害となり、面会交流を促進するという今回の法改正の立法趣旨に沿わない結果になりえます。裁判所の関与しない、話し合いの余地の大きい協議離婚においてこそ、面会交流を促進するために、「相当な面会交流」として年100日以上(隔週2泊3日、長期休暇は折半)という国際基準を紹介することが、「子の利益を最も優先」するためにいっそう望まれます。
 たとえば「面会交流2~実りある親子の交流を続けるために~」にある、別居親に対する、「子どもの体調、生活のペース、スケジュールに合わせ」た面会交流の取り決めの促しや、「高価な贈り物や行き過ぎたサービスなどは、やめましょう」といった注意事項は、基準として相当な面会交流が確保されているなら意味のある忠告ですが、よくて月に1回程度の交流しか取り決められない現実のもとでは単なる空々しい説教です。
貧弱な面会交流のもと、一度面会交流が中止になれば、2ヶ月や4ヶ月子どもに会えなくなり、下手をすればその年は会えなくなるとなれば、待ち望んでいた面会交流にあたり、「子どもの体調や生活のペース、スケジュール」に合わせた柔軟な対応を、、子どもの成長にかかわりたい別居親がとれると考えるなど、非現実的です。また、子どもの機嫌を損ねれば、子どもと会えなくなるかもしれないという恐怖感に別居親がさらされている場合には、会うたびにプレゼントを子どもに与えて子どもの歓心を買おうとするのは人情です。
こういった別居親の態度が、同居親の反感を買えば、やはり子どもが「板挟み」の状態に置かれかねません。また、親は子どもと触れ合うことではじめて親として成長するのであり、それが制約された親に対して、「親らしく振る舞う」ことを求めることは無理な要求です。親としての成長が伴わない親に親ぶられることは、子どものためにもなりません。
面会交流は、「別居親の子育ての時間」であり、引き続き親の責任として養育を分担することを啓発してください。そのことが、双方の親が「子の利益を最も優先して考慮する」ことにもつながります。面会交流が著しく制約された中で、養育費とともに「車の両輪」という説明がなされても、やはり不公平感がぬぐえません。面会交流では、「子どもは別居親のもとで定期的に過ごす」という文言を入れてください。また、記憶のタイムスパンが短い幼児の場合には、いっそう頻繁な面会交流が望まれることを明記してください。
常に子育てで協力ができれば望ましいことでしょうが、受け渡しの方法さえ明確であれば、相手の子育てに非関与であっても、面会交流は維持できます。それもまた対立の強い親にとっては協力です。安定的な面会交流が長期的に維持される前提があってはじめて、親それぞれが相手の行動に見通しを立てられるのであり、それが信頼感の醸成にもつながります。
もちろん、面会交流が「別居親の子育ての時間」であると促すことは、子育てにおける男女共同参画という観点からも望ましいことです。離婚していようがいまいが、電話や手紙のみをもって、子育てと呼ぶには無理があります。強制力が弱い面会交流の取り決めであるからこそ、こういった説明が必要です。養育費と面会交流をそれぞれ取り決めるのではなく、別居や離婚にあたって「養育計画」を作成することが前提であり、養育時間の分担とともに養育費の分担も取り決めるように促してください(資料2)。

要望項目
1 「面会交流」の定義から、手紙や電話での交流は外してください。
2 「面会交流」の説明として、「別居親の子育ての時間」であり、「子どもは別居親のもとで定期的に過ごす」という文言を付け加えてください。
3 「相当な面会交流」の国際的な基準は年100日以上であることを紹介してください。
4 記憶のタイムスパンが短い幼児の場合には、いっそう頻繁な面会交流が望まれることを明記してください。
5 「面会交流1~子どもたちのすこやかな成長をねがって~」の「面会交流に決まった方法はなく、面会、宿泊、学校行事への参加、電話や手紙等での交流など、そのときどきの状況により最も適した方法を選択します」という文言を、「面会交流では、面会、宿泊、学校行事への参加、電話や手紙等での交流の方法などを定めます。電話や手紙等の間接的な方法だけでは面会交流にはなりません」に変えてください。
6 「面会交流2~実りある親子の交流を続けるために~」の「子どもの気持ちを尊重して、しばらくの間、直接会う方法から手紙などの間接的な方法に切り替えることが、良好な親子関係を築いていく上で望ましい場合もあります。まずは、親同士で冷静に話し合うことが大切です」を削除してください。
7 別居や離婚にあたって「養育計画」を作成し、養育時間の分担とともに養育費の分担も取り決めるように啓発にあたって促してください。