| 登場人物 
                  
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                    | ハーグ条約のことがさっぱりわからない 悩めるぞうさん。
 | ハーグ条約のことをよく知っている 物知りパパ
 | ? |  
 
 
 ハーグ条約って何だ 
 
                  
                    |  
 | 最近、テレビや新聞で「ハーグ条約」ってよく聞くけど、これって何なの? |  
 
                  
                    |  
 | 正式名称を「国際的な子の奪取の民事面に関するハーグ条約」って言って、 1980年にハーグの国際司法会議で作られたから、「ハーグ条約」って呼ばれてるんだ。
 ハーグで作られた条約は「ハーグ条約」と呼ばれるものがほかにもたくさんあるけど、
 そのうちの一つだよ。
 名前がすごいけど、この条約は、親権・養育権(監護権)を持つ親のもとから、
 他方の親が、子どもを同意なく国境を越えて連れ去るまたは留めおく(奪取する)
 ことになった場合、親が子の返還を申し立てると、
 その子どもをすぐに元住んでいた国に返還することを基本原則にしている。
 それともう一つは、両親の養育権(監護権)や、
 面会交流の権利が実現したり守られたりすることも目的にしている。
 子どもにとっては、親どうしが離ればなれになっても、
 両方の親と行き来できるのがいいし、
 それは国際離婚でも変わらないよねという考えのもとに作られた条約なんだ。
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                    |  
 | どうして今、テレビや新聞で盛んに取り上げられているの? |  
 
                  
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 | この条約には、今84カ国が加盟していて、 主要国で未加盟なのは日本とロシアだけになっているんだ。
 ほかの国は条約に加盟して子どもを返還することがあるのに、
 日本は一度も政府が関与して子どもの返還をしたことがない。
 現在の日本の裁判所は、子どもがいるほうの親に親権・養育権を与えるし、
 法律では面会交流の権利は保障されない。
 日本に子どもを奪取されてしまえば子どもと会うことすらできなくなり、
 一生生き別れになってしまうこともある。
 こういった日本の実情を海外の政府は厳しく批判してきたんだ。
 もちろん日本に子どもを奪取された親たちも各国政府に働きかけた。
 2010年3月には8カ国(米、豪、加、仏、伊、西、英、ニュージーランド)の
 大使、公使が条約批准を日本政府に要請したし、
 9月29日には米国下院議会が、「拉致」と非難して
 条約の早期批准を求める決議案(416票対1票)を可決する事態にも至っているんだ。
 毎年各国政府の要人が日本に来る度に、この問題の解決を日本政府に促していて、
 フランス議会も決議を用意している。
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                    |  
 | 拉致問題で各国政府に協力を求めてきた 日本政府が「拉致」で批判されるって……。
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                    |  
 | 少し考えてみればわかるけど、朝鮮共和国の拉致問題で 子どもや家族を拉致された親たちに圧倒的な支持が集まって、
 共和国への非難が一気に高まっただろう。
 それと同じことをされているわけだから、
 そりゃあ各国の政府も世論も怒っているのは当然だよ。
 日本は今じゃ、「子どもの奪取者のサンクチュアリ」って
 国際的にも有名になっているんだから。
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                    |  
 | でも親が子どもを連れて行くって、「奪取」とか「拉致」とか大げさじゃない。 |  
 
                  
                    |  
 | 日本では離婚するときに母親が子どもを連れて実家に戻ったり するということが多かったからね。
 でもそういう事態をどんな場合でも容認していれば、
 子どもを確保したほうが親権を得るということがまかり通ってしまう。
 一度連れ去って会わせれば逆に取り返されるかもしれない。
 そんな中で法律やルールもないのに面会交流や共同養育なんてできるわけないよね。
 連れ去れば親権も得られて会わせなくてもいいんだから、
 ますます連れ去りは助長されるよ。ハーグ条約に加盟した国々は、
 そういうのはよくないよねって、早くから面会交流や共同養育の
 法整備が進められてきたんだ。
 「クレイマー・クレイマー」(子どもをめぐって法廷で激しく争う
 両親と親子の絆について描いた映画。
 単独親権制度最後の時代のアメリカを描いた。
 その後、アメリカでは共同養育の法整備が全米に広がっていく)
 の映画の中のような状況が今日本では現実になっている。
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                    |  
 | 領土問題みたいに「実効支配」が一番のルールだね。 まるで「ジャングルの掟」だ。
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 条約加盟への慎重な意見 
 
                  
                    |  
 | じゃあ、どうして日本は条約にこれまで加盟してこなかったの? |  
 
                  
                    |  
 | さっきも言ったように、離婚したら子どもは母親で、 しかも女性は被害者っていう常識があったからね。
 各国政府に指摘されるまで、今のままでいいっていうことだったんだろうね。
 それを文化の違いって説明する人はいるよ。
 昔は逆に離婚のときは母親が子どもを家に置いて出て行かなければならなかった。
 だからせっかく女性が親権をとれるようになったのにっていう思いを持っている人もいる。
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                    |  
 | だから条約加盟に「慎重」な意見が多いの? |  
 
                  
                    |  
 | 海外から逃げてきた母親のもとから、 子どもを再び返還させるのはかわいそうだという意見がある。
 こういった女性たちはDVの被害者だって言っている弁護士もいる。
 アメリカ政府は調査の結果、それを否定しているけどね。
 子どもを奪取した親は、アメリカでは誘拐犯としてFBIで顔写真入りで
 指名手配されたりしている。
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                    |  
 | そんなに問題がある条約にどうして84カ国も加盟しているんだろう? |  (ワル造登場)
 
 
                  
                    |  
 | オレは条約脱退を各国に呼びかけるべきだと思うよ。 だって聞いてると、子どもを連れ去って会わせなくていいっていうのは、
 日本のいい文化なんだろ。
 それで子育ては女性で男は仕事に専念して金だけ払うっていうのも文化だっていうし。
 そんな文化がいいっていうんだったら、
 それと相容れない条約のほうが間違っているってことになる。
 脱退を各国に勧めるべきだね。それで日本のいい文化を世界中に広めるべきだ。
 だいたい日本に子どもを連れ帰った親は、海外に行けば誘拐罪で逮捕されるんだろ。
 条約加盟国に脱退を呼びかけないと、おちおち海外旅行にも行けないじゃない。
 「慎重」とか言ってる人たちは、そういう人たちのことほんとにまじめに考えてないよね。
 考えが甘いんじゃない。
 子どもは返さなくていいよ、そんなに世界中、文化的に遅れてるんなら。
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                    |  
 | この条約は民事面に関するものだから、 常に子どもを連れ去った親が犯罪者として逮捕・起訴されるわけじゃないよ。
 でも、指名手配されている人は居心地は悪いだろうね。
 慎重な人たちは、条約に加盟すると、これまで日本で積み上げてきた
 DV被害者支援の水準が保てなくなるんじゃないかって心配している人もいるんだよ。
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                    |  
 | よくわかんないけど、条約に加盟している国にはDVはないわけ? |  
 
                  
                    |  
 | そんなことはないだろう。 |  
 
                  
                    |  
 | だったら、条約加盟国はどうやってDV被害者支援をしているわけ。 条約の加盟とDV被害者支援が対立するなら矛盾じゃない。
 白人男性はみんな凶暴なDV加害者だって言いたいわけ。
 やっぱ文化だろ、文化。連れ去り文化がいいってわけじゃん。
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                    |  
 | 海外でDV被害を受けた邦人を保護するためには、 やはり条約の加盟には慎重な立場だってあると思うよ。
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                    |  
 | 邦人保護っていうんだったら、海外のDV施策がおかしいから改善してくれとか、 海外の政府に働きかけるのが日本政府の役割だろ。普通そうするじゃん。
 ちょっと前に、麻薬の密売で中国で死刑にされた人がいたけど、
 日本政府は中国政府に働きかけただろ。
 海外の政府が日本に圧力をかけるのも、自国民保護だからじゃない。
 日本人のためにしているわけじゃない。
 海外で共同養育とかさせてるから問題になるんだろ。
 単独親権に改善して、面会交流権なんて認めるなって
 各国政府に働きかければいいじゃん。
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                    |  
 | 慎重な人たちには、条約ができた1980年時点では、 DVの深刻な実態は知られていなかった。
 即時返還となったら、DVが連れ去りの原因になった事情を訴えても、
 原則として返還の抗弁が成り立たなくなる心配があるって言う意見もある。
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                    |  
 | 実際、どのくらいの割合で、子どもの返還ってされているの。 |  
 
                  
                    |  
 | 条約の運用実績について2003年に締約国に対して行われたアンケートでは、 返還申立て件数は締約国全体で1259件。
 対象となった子どもの数は1784人で、0~4歳が36%、5~9歳が42%で、
 9歳以下の子どもを対象とするケースが大部分を占めている。
 申立て後の主な結果は、「任意の返還」が22%、
 「合意に基づく返還裁判」9%、「返還を命ずる裁判」20%、「取下げ」15%、
 「返還拒否の裁判」13%となっている。
 返還拒否の主な根拠は、「委託国が子どもの居住地でない」15%、
 「申立人に監護権がない」8%、「奪取から1年を経過している」12%、
 「返還すると子に重大な危険が及ぶ恐れがある」18%、
 「子による異議がある」9%などだね。返還の申し立てをしても、
 認められないケースもだいぶある。
 返還するかどうかは各国の条約の解釈や裁判所の運用によるからね。
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                    |  
 | 返還を命ずる裁判は20%か。 |  
 
                  
                    |  
 | 任意の返還合意を国際弁護士どうしですることで 問題に対処しているケースも多いからね。
 条約があることでそれが可能になるわけだ。
 それに、条約は子どもが元住んでいた国への返還を定めていて、
 その後の子どもの養育についてどうするかは、その国の国内法で扱われることになる。
 ちなみに、諸外国から日本への奪取案件は、2010年1月では、
 米77件、英37件、加37件、仏35件。逆に日本からの奪取案件は、
 2009年の88公館を通した調査でも21公館36事例。
 子の返還数と返還を受ける数の間には大きな格差がある。
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                    |  
 | それって、加盟すれば返還しないといけなくなる。 だから、海外に連れ去られた親は人数も少ないから無視していいってこと。
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                    |  
 | それでも加盟すれば返還しなきゃいけないんだろ。 要するに、連れ去られた親はその人たちが悪いっていうのが、
 慎重な意見の人が言いたいことじゃないの。
 そりゃもっともだから、やっぱ条約脱退の呼びかけだよ。
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                    |  
 | ハーグ条約のもとで子どもが返還され続けているのに、 締約各国において子どもの連れ去り事件の発生件数は
 減少していないという意見もある。
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                    |  
 | でも、それってDV法が日本でできてもDVが増え 続けているというのと同じ理屈でしょ。
 だからって、DV施策も子どもの奪取問題も取り組まなくっていいってわけじゃないし、
 法律が必要ならそうすべきで、問題があるなら改善すべきじゃないの。
 なんだか聞いてて二つの問題がいっしょくたに扱われているみたいでややこしいよ。
 |  
 
                  
                    |  
 | やっぱ文化だよ、文化。 |  
 
                  
                    |  
 | DV法を作るときは、反対の意見の人たちは夫が妻を殴るのは 日本の文化だって主張していたよね。
 家庭の中だけどうして例外になるんだって言ってDV法でDVは犯罪になった。
 親元から無断で子どもを連れ去って会わせないなんて、普通は誘拐だよ。
 それを文化っていうのは無理がない?
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                    |  
 | おじさん、ああでもないこうでもないっていったい何なのよ。 賛成なの反対なの。
 反対だったら脱退の呼びかけだよ。
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                    |  
 | ハハハ。国際離婚なんてこれまでよくわからなかった人が、 黒船の来襲にあたふたしているようなもんかもしれない。
 ぼくは条約加盟するしないにもかかわらず、
 連れ去って会わせないなんておかしいと思うよ。
 自国民保護というのはDV被害者も、奪取された親も子も、
 両方に当てはまることだろうし。
 自国民だけよければいいってことでもない。
 日米関係に影響するから条約に加盟するというのも変な話だよ。
 だけど条約に問題があるということと、
 条約に加盟しなくていいということとは別の問題だよ。
 問題はどんな条約にももちろんあるかもしれないけれど、
 加盟国は増え続けているんだから。
 |  
 
 
 条約に伴う国内法整備 
 
                  
                    |  
 | 条約に加盟するためには国内法も変えないといけないの? |  
 
                  
                    |  
 | 条約に加盟すれば、当然国内法の整備も必要になってくるからね。 子どもの返還についての手続き法だけじゃない。
 そもそも条約は両方の親と子どもとの面会交流を保護することを前提に作られている。
 条約ができたころはアメリカでも単独親権だったけれども、
 面会交流権は100年前から確立していた。
 罰則があって強制力もある。
 そもそもアメリカではDVや虐待があっても、
 安全確保と監視が慎重になされた上で面会交流が進められる。
 親は子どもの養育に責任があるわけだから、
 加害者であってもその責任から免れないという理屈なわけだ。
 会いに行かない親は養育責任を果たしていないということになる。
 そもそも養育費の取り決めがあっても会う保障がなければ
 払うこともしなくなるというのは、日本でもアメリカでも変わらない。
 その後、日本も1994年に加盟した子どもの権利条約でも、
 両方の親との交流がその9条3項で定められている。
 両方の親と交流を確保するのが子どもの権利だというのは、
 条約全体の趣旨からも再確認されている。
 |  
 
                  
                    |  
 | じゃあ、何がそもそも問題なの。 |  
 
                  
                    |  
 | 少なくとも、日本では子どもを連れ去って会わせないのが 「子どもの福祉」だっていう、弁護士や裁判官たちの解釈は、
 諸外国の常識とは正反対だから変えないといけなくなる。
 別に国際離婚じゃなくっても、子どもを東京から九州や北海道に
 連れ去られて会えなくなるなんて事態は珍しくない。
 飛行機に乗っている時間を考えれば、海外に奪取されたのと変わらない。
 今は親権者に無断で連れ去って会わせないというのは
 日本国内でも当たり前だけれど、そもそもこういった事態がまかり通っていること自体が、
 現在の民法においても違法状態だ。DV施策だってこれを前提に運用されている。
 被害者が訴え出たら加害者が調べられもしないまま子どもと引き離される。
 適切な法手続きの保障がなければ、被害者の安全だって確保されない。
 子どもはそもそも親の持ち物じゃないんだから。
 親どうしが別れるときに、第三者が中に入って、
 その後の子どもの養育についてどうするか話し合い、
 取り決めるためのルールがこれからは必要になってくる。
 共同親権は親が子どもの養育に責任を持っていくための手段だ。
 理屈っぽくなってきたけど、わかった?
 |  
 
                  
                    |  
 | なんか熱弁になってきたね。 |  
 
                  
                    |  
 | おじさん、最初からそう言っとけばいいんだよ。 |  
 
 
 関連情報リンク集 ・国際的な子の奪取の民事面に関する条約(ハーグ条約)wikipedia解説
 
 ・江田五月法相 ハーグ条約についてのコメント(日本経済新聞)
 
 ・国際結婚破綻トラブル 日本も対応条約批准を 仏上院(朝日新聞)
 
 ・破綻した国際夫婦の子の返還 早い条約加盟図る 外務省(朝日新聞)
 
 
 
 
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