宗像 充  「離婚後の親子交流」

朝日新聞2008年9月30日に公表したもです

離婚調停成立の間際に妻を殺した容疑で、愛知県の男性が8月に逮捕された。長男の親権をめぐってトラブルになっていたという。5月には、福島県いわき市で子どもの親権を求めていた女性が元夫に殺され、東京都杉並区では別居中の夫が妻と子どもを奪い合った末に、制止しようとした警官の銃を奪い発砲した。1月には、宇都宮市で夫が実家に戻った妻を殺す事件があり、夫は「子どもに会わせてもらいたかった」と供述した。
報道されただけでも、半年間にこれだけの殺傷事件がある。背後には、子どもとの面会と親権をめぐる無数のトラブルが埋もれているはずだ。
日本の民法は、離婚後の親権をどちらかの親に決める単独親権制度をとる。裁判所で子どもとの面会について取り決めても強制力はないので、実際に会えるかどうかは親権者の意向次第になる。裁判所は、子どもを手元に置いた側にまず親権を与える。「先にとった者勝ち」なので、事件も頻発するわけだ。
私は昨年、妻と別れるまでこのことを知らなかった。事実婚だったので私にはもともと親権がなかったが、いったんは話し合いで子どもを引き取り、母親とも会わせていた。ところが、母親は突然「子どもを拘束している」と人身保護を請求し、子どもを連れていったあげく、すぐに再婚相手の養子にしてしまった。親権があるというだけでそんなことができるのかという思いだった。
私が子どもと会えるまで1年かかった。親権のない親には、法的には親としての権利義務がない。親権者に拒否されて会えなくなれば、子どもとの関係が深かった親ほど苦しみは続く。
欧米の主要国は、離婚後も双方の親に法的な権利義務が維持される共同親権制度に移行している。単独親権制度は子どもの養育の責任者を決める点では歴史的な意味もあっただろうが、今では子どもの奪い合いと親子の引き離しを促すだけだ。
心理学では、親と会い続ける方が子どもの健全な発達によいとされる。双方の親に子どもを養育する権利と責任があり、子どもには双方の親から養育を受ける権利がある。そう考えれば離婚で親子の関係を絶つことがいかに不自然かがわかる。
会えない親の方に原因があるという偏見に支えられ、裁判所は「子どもの福祉」という言葉でしばしば親子関係を断ってきた。だが、男女ともに育児にかかわる親が増え、子どもの奪い合いは熾烈になる一方だ。離婚後の養育についてのガイドラインと、親同士の関係を調整する第三者による支援体制を整え、子どもの側から見た多様な家族のあり方を可能にする法整備を早急に進める必要がある。