この記事では日本についても触れられています。

毎日
「ハーグ条約:妻に連れ去られた息子とオランダで再会
父の探索、自転車6500キロ」

 http://mainichi.jp/select/wadai/news/20101112ddm007030153000c.html

ハーグ条約:妻に連れ去られた息子とオランダで再会 父の探索、自転車6500キロ

 ◇ハーグ条約早期に批准を

 オーストラリア人男性が今秋、同郷の妻に連れ去られた息子を2年半ぶりに欧州のオランダで「発見」し、
父子の再会を果たした。
息子の写真を印刷したシャツを着て欧州各地を自転車行脚すること半年、銀輪に託した思いが通じた。
男性は息子捜しの旅をつづった本を近く出版し、子どもの連れ去りへの問題意識を喚起したい考えだ。
また、国際結婚が破綻(はたん)した夫婦間の子どもの一方的な連れ去りを禁じた取り決め
「ハーグ条約」の早期批准を日本などに呼びかけている。【アムステルダムで福島良典】

 男性はオーストラリア東南部ニューサウスウェールズ州の消防副局長だったケン・トンプソンさん(57)。
州都シドニーで妻、一人息子のアンドリュー君(6)と3人家族で暮らしていたが、
07年末から妻が距離を置くようになり、離婚調停中の08年4月、息子と共に姿を消した。

 「シンガポール経由で欧州に渡ったことがわかった」。
国際刑事警察機構(ICPO)を通じて当局の捜索が始まったが、
7カ月後に「見つけられない」との連絡があり、トンプソンさんは自力捜索に乗り出した。
「息子捜索中」の電子メールを広めてもらうよう知人に送り、
情報提供を募るウェブページを開設した。

 やがて仕事を辞めて息子捜しに専念することを決意、渡欧。
自転車愛好家のトンプソンさんは今年5月、息子の顔写真を印刷したシャツを着て英国から自転車の旅に出た。
ドーバー海峡を渡り、フランス、ドイツ、ポーランド、チェコと欧州各国を巡り、走行距離は約6500キロに達した。

 「天使は無事だ」。ドイツを走行中の今夏、匿名の電子メールが届いた。
妻と息子がアムステルダムにいることが判明、オランダ警察当局に連絡を取った。
後日、メールの送り主は妻が現地で接触した宗教団体の職員らしいと分かった。

 妻はトンプソンさんが添い寝をしていたことを不審に思い、息子を性的に虐待していたと思い込んでいたという。
トンプソンさんは「法廷に提出された専門家の鑑定報告書からも、妻の主張が事実無根なのは明らか」と否定する。

 アムステルダムの児童施設にいる息子との面会は週3回。
息子を混乱させず、父子の関係を修復する時間が必要なためだ。
「初面会では私の方が緊張した。
息子は次第に記憶を取り戻し、面会を喜ぶようになった」と再会を振り返る。

 妻の弁護士は鑑定のやり直しを求めており、父子そろってオーストラリアに帰国するまでには時間がかかりそうだ。
「消防士は危機にある人を助ける仕事だ。
最愛の息子を見つけ、安全な場所に助け出すことが私の使命になった。
一日も早く故郷のオーストラリアで息子と一緒に暮らしたい」。それが願いだ。

 ◇国際結婚破綻の悲劇防止 非加盟国に強まる圧力

 トンプソンさんは自らの境遇から、国際結婚が破綻した場合の子どもの扱いを定めた
「ハーグ条約」の加盟国拡大を求める運動にかかわるようになった。
自転車行脚の途上、オランダ・ハーグに立ち寄り、条約の適用強化を求める親たちの署名を当局に提出した。

 「私たちのケースはオーストラリア人同士だが、連れ去りは国際結婚夫婦の場合が多い。
オーストラリアから欧州や日本への連れ去りは9割が母親によるものだが、
中東への連れ去りは9割が父親だ」と背景に横たわる異文化問題を指摘する。

 ハーグ条約に加盟していない日本には欧米などの圧力が強まっている。
10月22日にはオーストラリア、米独伊などの駐日大使らが柳田稔法相に条約の早期批准を求めた。
日本外務省は条約加盟を検討するため、国際結婚に破れた邦人当事者からの意見を募集している。

 トンプソンさんは自らのケースは条約の想定外だが、
つらい体験から「連れ去りは重大な虐待だ」と指摘、
「日本を含め非加盟国には各国の文化や法制度の違いなどのハードルがあるのは理解しているが、
国際舞台の主要プレーヤーである日本には条約に早く加盟してほしい」と語る。

 トンプソンさんは経験を著書や映像で公表する構想を練っている。
捜索に有効な手段など具体例を盛り込み「連れ去られた子どもを捜す親たちの『手引』を作りたい」という。

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 ■ことば
 ◇ハーグ条約

 国際結婚が破綻した夫婦間の子どもの扱いについてルールを定めた
「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」の通称。
国際結婚夫婦の一方の配偶者が親権や面会権を確定しないまま、
16歳未満の子どもを無断で居住国から外国に連れ出す行為を不当と位置づけ、居住国への帰還を求めている。
80年に制定され、83年に発効した。欧米を中心に世界で82カ国が加盟しているが、
国内法との整合性などを理由に日本を含めたアジアや、アフリカ、中東には加盟していない国が多い。