民法766条改正を生かした裁判所運営を求める要望書

民法766条改正を生かした裁判所運営を求める要望書

kネットでは、若林辰繁裁判官の発言について
千葉家庭裁判所委員会に、以下の要望書を提出しました。

【民法766条改正を生かした裁判所運営を求める要望書】

2012年7月8日

千葉家庭裁判所委員会委員長 松田清 様
千葉家庭裁判所委員会委員の皆様

日々、法曹の向上に努力されておりますこと、ありがとうございます。
昨年5月27日に、 「面会及びその他の交流」について明文化した民法改正案が成立しました。この同じ日、子どもとの交流を絶たれ調停に出席した父親が、法務大臣の国会での答弁などを踏まえて「子の利益」に叶う判断をしてほしいとお願いしました。千葉家庭裁判所松戸支部の若林辰繁裁判官は以下のように述べました。

「法務大臣が国会で何を言おうと関係ない。国会審議など、これまで参考にしたことは一度もない」
この父親が、「立法者意思を全く無視して法解釈をしてよいと家庭裁判所が判断する根拠は何ですか。司法は立法より上の立場ということでしょうか」と聞き返すと、「あなたと法律の議論をするつもりはない」と言って席を立ちました。

江田法務大臣は国会での審議において、「可能な限り家庭裁判所は親子の面会交流ができるように努める。これはこの法律の意図するところだ。家庭裁判所の調停審判においてより一層そういった方向で努力がなされることを期待する」と述べ立法趣旨を明確にしています」
私たちも別居親団体として相談を受けましたが、この父親の子どもを育てたいという訴えは、一審では認められず、高裁でもすぐに却下されています。
私たちは、この若林裁判官の発言について、度々、裁判所の適切な対応を求めて所轄の千葉家庭裁判所と、松戸支部、及び最高裁判所に要望書を提出するとともに、法の趣旨に基づいた裁判所運営がなされるように、求めてきました。

またこの間、各報道でこの件が度々取り上げられたほか、先日、6月19日の参議院でも、桜内文城参議院議員が、「これこそ本当に裁判官の独立じゃなくて、裁判官の独善に陥っているんじゃないかと思うんですけど」と述べ、この発言を問題視して家庭裁判所のあり方を問う質問をしています。桜内議員の質問に答えて、最高裁判所家庭局豊澤佳弘局長は、「法改正等が行われた場合、新たに定められた法律の趣旨にのっとった法の解釈、適用あるいは実務の運用というのがなされるべきことは委員のご指摘のとおりでございます」と述べています。
私たちは裁判官にフリーハンドを与えているわけではありません。個別の事情に基づいた判断を裁判官がするのは当たり前ですが、若林裁判官の発言は、自身の思い込みに事例を当てはめて考えようとする、裁判官の思考停止の現れと、私たちは考えざるをえません。法律が民意を直接反映する国会で定められる以上、法律に主権者である私たちにとって必要な立法趣旨があるのは当たり前です。それを無視してはばからないなら、そもそも裁判官という職業自体を自己否定することになります。

民法766条はこの4月から施行されています。また、「当事者にふさわしい適切な手続保障」を趣旨とする、家事事件手続法も来年4月から施行されます。当然、双方の法改正の趣旨を汲んだ調停・審判、裁判の運営が、これからいっそう求められます。いずれも、市民に開かれ身近な裁判所を作ろうとする家庭裁判所委員会の存在意義と合致する法改正でもあります。その際、こういった裁判官の発言を裁判所として不問にすることは、裁判官の独立を脅かし法の趣旨に基づいた家庭裁判所のあり方を困難にします。

今年4月から民法766条は施行されましたが、依然現状を追認する監護権の指定や、月に1回2時間程度(年24時間)といったような、世間に言えば信じられないような子育ての時間を別居親に割り当てる、家庭裁判所の面会交流の基準に変化があるように見えません。2時間では、千葉城に行って天守閣に登ったら、もうおしまいです。

私たちは、千葉家庭裁判所として、この若林裁判官の発言問題の解決と再発防止を求め、以下要望します。

  1. 若林裁判官の発言についての千葉家庭裁判所としての見解を表明してください。
  2. 再発防止に向けた取り組みを公開の上実施してください。
  3. 面会交流が別居親の子育ての時間であることを踏まえて、民法766条改正の趣旨を生かすため、別居親子当事者を交えた職員研修を、千葉家庭裁判所が率先して行い、当事者の声を反映した裁判所運用を行ってください。