単独親権は憲法24条違反
147号で書いた原稿について、148号でお二方からご批判を受けたので、その根拠を示すように149号で書かせてもらったが回答はなかった。147号の最初の文章でぼくが赤石千衣子さんを批判するきっかけになった、親子断絶防止法についてぼくの見解については表明していないので、念のため三度原稿を送らせていただく。
12月に編集部から頼まれ原稿を書いた後に、親子断絶防止法案の詳細が明らかになった。ぼくが所属する共同親権運動ネットワークは立法活動からは初期段階で抜けている。12月半ばに出てきた法律案をはじめて見て、これは賛成できないと2月から廃案を目指して活動してきた。反対する理由は、赤石さんの朝日新聞の記事(2016年9月29日)とは逆向きになる(声明は会のサイトで閲覧できる)。
赤石さんは朝日新聞で子どもの意見も聞かない法律ができれば、20年以上前に時計の針を戻すことになる、と述べていた。1990年代に離婚事件で子どもの意見を聞く運用がなされていたという事実をぼくは知らないが、できあがった法案においては、たしかに子の年齢、成長に応じて、子の意思を表明する機会を保障する条文がある。常識的に考えて、親に会えない状況を強いられておいて、成長した子が無邪気に「パパ(ママ)に会いたい」と表明することを想定しているとしたら、そもそも子の成長など大人は認めていないに過ぎない。正直言ってこれは尋問で、子どもの権利保障ではなく権利侵害そのものだ。
また、法案はDV防止法、児童虐待防止法の趣旨を尊重することを規定し、DV、虐待の場合には、親子断絶を正当化することも法案に用意している。現在のDV防止法の運用が、異議申し立てすらしようのない明白な手続き的な不備があることについてはすでに指摘したが、そもそもDVや虐待の加害者であっても親は親である。DVや虐待の恐れがあるからと言って、まともな手続きも経ずに、親としての権利義務を解除するなら、いったい親とは何なのだろうか。法益均衡といった発想自体がそもそも成り立たないし、こういった条文自体を親子関係を規定する法律に盛り込めば、今でも一方的な措置によって、多くの親子を有無を言わさず引き離している、行政による人権侵害を正当化する。これは断絶防止法ではなく断絶促進法である、もちろん、こういった規定自体を別居親が運動して盛り込むことはない。逆に赤石さんの主張に沿う形にはなっている。ぼくが言いたいのは、こういった断絶規定の明文化が、子どものためとか、DV被害者のためとか言うのは一面的に過ぎないということだ。
ぼくたちは単独親権の被害者団体であると同時に、暴力防止の団体でもある。共同親権の運動を進める中で受けた批判に、共同親権は積み重ねてきたDV防止の成果を損なうことになる、というものもある。しかしながら、理不尽に引き離された親に暴力ではない別の手段によって、子どもとの関係を取り戻す道をぼくたちはともに考えてきた。引き離された親には女性からのDV被害を受けた人々も少なくない。妻から刺されていながら、妻が子を連れ去って警察に駆け込んだため、警察はマニュアル通りに妻をシェルターに保護したので、刑事事件にもしてもらえなかったという無茶苦茶な事例もある。彼らへの支援をしてきたのはぼくたちである。何より腹立たしいのは、DV被害者である女性が父親から子どもを引き離されたとき、女性相談に行って「もっと早く来てくれれば。子どもが落ちつかなくなるからあんまり荒立てないほうが」と言われ、ぼくたちのところに相談に来る女性の話を聞くときである。いったいこれが女性支援の暴力防止の活動なのか、いまだに理解ができない。
最近、面会交流中の殺人事件が起き、フェミニストの大学教授は即座に「面会交流殺人」といかに面会交流が危険なのかを嘆いてみせた。しかしこれが子どもの奪い合いの末の殺人なら、本来なら「単独親権殺人」である。男性の危険性や別居親の加害性を言い立てて挑発し必要な手続きを怠る言説を、本気で暴力防止のために言っているのだろうか。
150号の特集では憲法24条が取りあげられた。夫婦同姓の強制が、男女どちらの姓も選べるから違憲ではないと言ったところで、実際には男の姓(97%)に合わせられる女性が理不尽と感じるのは想像がつく。同じように、単独親権の強制は、女性の親権取得率が8割であっても、どちらの側も親権を得られる可能性があるから24条違反にあたらない、と言うとしたら筋が通らない。そこに子育ては女の専権事項という伝統的価値観以上のどんな理屈があるというのだろう。家制度の父系と母系を争うことがそんなに重要か。もし父親が子育てに必要でないなら母親も等しく必要でない。ぼくが目指しているのは、戦後に残存した家制度、つまり戸籍と単独親権の撤廃である。戸籍はよくないけど単独親権はいい、そんな主張はいったい男女平等か。(宗像充、「府中萬歩記」で「ジェンダー・ウォー」連載中)
(「市民活動のひろば」151号、宗像 充)