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抗告人(原審相手方):夫 / 相手方(原審申立人):妻
長男 / 連れ去り:平成■年■月■日
抗告人代理人 弁護士 後 藤 富 士 子
1 改正「DV防止法」に基づく「配偶者による子の拉致」
平成16年12月に改正配偶者暴力防止法が施行された。改正の目玉は「援
助」という名の「被害者絶対主義」である。被害者の申告に疑問を挿むことは
「二次被害」をもたらすという理由で、「被害者の陳述は全て真実と受け止め
よ」という、信じ難い原理によって貫かれている。
内閣府男女共同参画局「配偶者からの暴力相談の手引」では、「避難したことに
よって生じる問題への対処」として、加害者が被害者の居所を突き止めないた
めに、①家を出るときには手掛かりを残さないように心がけ、相談機関の電話
番号やリーフレットなどの関連する資料を家に残さないようにする、②電話の
リダイヤル機能や通話記録から突き止められることがあるので、家を出る直前
の連絡等は公衆電話を利用するなど工夫する、③荷物の搬送を運送業者に頼む
ときは、居場所を秘匿するように依頼する、④一時保護施設等の近くの銀行か
らお金を引き出さない、手紙も近くのポストに投函しないなどの注意事項が挙
げられている(乙9/58~60頁)。
そして、絶大な威力をもつのは、改正配偶者暴力防止法第8条の2「警察本
部長等による援助」である。すなわち、配偶者暴力防止法第8条の2では、警察
本部長等は、「配偶者から身体に対する暴力を受けている者から、配偶者からの
暴力による被害を自ら防止するための援助を受けたい旨の申出があり、その申出
を相当と認めるときは、当該配偶者からの暴力を受けている者に対し、国家公安
委員会規則で定めるところにより、当該被害を自ら防止するための措置の教示そ

の他配偶者からの暴力による被害の発生を防止するために必要な援助を行うもの
とする。」とされた。これに基づき、平成16年11月8日国家公安委員会規則
第18号「配偶者からの暴力による被害を自ら防止するための警察本部長等によ
る援助に関する規則」では、援助措置の一つとして「加害者に被害者の住所又は
居所を知られないようにすること」が規定され(同規則1条2号)、その措置が取
られた場合、加害者から捜索願が出されても受理しないこととされる。捜索願を
受理した後に、この援助の申出があると、警察はその手配登録を解除するととも
に、被害者の意思に従い、その生存のみを連絡するなど、被害者の立場に立って、
適切な措置を講ずる(平成16年11月17日警察庁生活安全局長・長官官房長・刑事
局長通達)。この警察の「援助措置」が発動されるのは、被害者自らの申告によ
るところ、その申出の相当性の判断資料として、医師の診断書コピーによるのが
一般的である。
また、身体に対する暴力以外の暴力を受けた場合には、警察は家出人発見活
動の目的に照らして、被害者の立場に立った適切な措置を講じることとされて
いる(平成13年7月9日警察庁生活安全局長・長官官房長・刑事局長通達)。この
場合、診断書もなしに捜索願を受理しない扱いが「援助」の名目で行われる。
本件では、相手方から「診断書」が出されていないから、これによったもので
あろう。抗告人は、○○警察署へ捜索願を出しに行って、受理しない、居場所
は教えられないと言われている。
すなわち、「自ら被害を防止するための警察の援助」は、自称「被害者」が警
察の援助によって「雲隠れ」することを保障する。まともな夫なら、突然いな
くなった妻子の捜索願を出すのは当然であり、それを「加害者が被害者の居所
を追跡・探索する行為」というのだから、話にならない。ちなみに、加害者を
「予防拘禁」や「行政検束」することは、法治国家において不可能なので、被
害者を「隠避」することによって同じ効果をもたらすのである。換言すると、
この「援助」措置は「逆予防拘禁」「逆行政検束」と言うべきものであり、法治

国家にあるまじき法規である。恐るべきことと言わねばならない。
2 医療保険、年金
医療保険制度では、被扶養者等から外れた者が国民健康保険等に加入するに
は、医療保険の被扶養者から外れたことの証明が必要となるところ、その手続
は被保険者からの申出に基づき行われていた。しかし、配偶者からの暴力を受
けた者の保護のため、被保険者(加害者)自身から、被扶養者を外す旨の届出
がなされなくても、被扶養者(被害者)から、婦人相談所が発行する「配偶者
からの暴力の被害を受けている旨の証明書」を添付して被扶養者から外れたい
旨の申告がなされた場合には、被扶養者から外すことができる取扱がされてい
る。当該被害者に同伴している者についても同様の証明があれば、当該同伴者
についても被扶養者から外すことができる(平成16年12月2日厚生労働省保険局
保険課長・社会保険庁運営部医療保険課長通知、平成16年12月2日厚生労働省保
険局保険課長通知、平成16年12月6日厚生労働省保険局国民健康保険課長通知)。
このように、「被扶養者から外れる」ということは、夫から逃れ新しい地で自
立して生活していくためである(乙9/61頁)。しかし、そこにいるのは、子ど
もを独立の人格と認めないで附属物のように「同伴」し、子どもを扶養する資
力も意思も怪しいのに、改正「DV防止法」に唆されて「家庭破壊離婚」に踏み
出す妻である。
また、年金についても、被害者が第3号被保険者であって、当該被害者がそ
の配偶者の収入により生計を維持しなくなった場合は、第3号被保険者から第
1号被保険者となる手続が必要となる。そして、第1号被保険者となった場合
は、自らが保険料を負担する義務が生じることになるが、生活保護を受けてい
る場合や、経済的に保険料の納付が困難な場合等は、保険料の免除制度を利用
できる(乙9/63頁)。
相手方と長男は、既に医療保険も被扶養者から外れており、年金も第1号被

保険者となっている。換言すると、相手方は抗告人に対し、生活保持義務に基
づく婚姻費用を請求しないことを前提として、社会保障制度を利用しているの
である。それにもかかわらず、通常の生活保持義務に相当する婚姻費用分担額
を得るとすれば、理論的には不当利得になるはずである。
3 生活保護
生活保護法の「扶養義務」の取扱いについても、「夫の暴力から逃れてきた母
子等当該扶養義務者に対し扶養を求めることにより明らかに要保護者の自立を
阻害することになると認められる者であって、明らかに扶養義務の履行が期待
できない場合」の「扶養能力調査の方法」は、「まず、関係機関等に対し照会を
行い、なお扶養能力が明らかにならないときは、その者の居住地を所管する保
護の実施機関に書面をもって調査依頼を行うか、又はその居住地の市町村長に
照会することとして差し支えない。」という(乙9/208~210頁)。
相手方は、家出した当初から生活保護を受給していると思われる。生活保護
には生活扶助、教育扶助、住宅扶助、医療扶助、介護扶助、また一時的なもの
として出産扶助、生業扶助、葬祭扶助があるが、生活扶助、住宅扶助、医療扶
助を受給している可能性が高い。相手方が生活保護を受給しているか否か、受
給しているとしたらその種類・金額など、仮に相手方の居住地が判明していた
としても、夫である抗告人が福祉事務所に問い合わせても回答は得られない。
したがって、相手方は、婚姻費用と二重に生活保護を受給していることが推測
できる。
いずれにせよ、改正「DV防止法」は「被害者絶対主義」「秘密主義」なので、
相手方自身が開示しなければ、抗告人において情報を得られない。よって、相
手方に、抗告人の現に支払っている婚姻費用の外にどのような収入・給付金が
あるのか、明らかにするように求めたい。

4 結語
抗告人は、相手方に対し、配偶者暴力などしていない。それにもかかわらず、
相手方は、自らを「DV被害者」と装うことによって反射的に抗告人を「DV加害
者」にでっち上げている。このこと自体でも、相手方が抗告人に対して婚姻費用
分担請求することは信義則に反する。
また、相手方は、抗告人の収入によって生計を維持しないという任意な選択を
したのであり、生活を維持するのに不足な分は社会保障制度の恩恵を受けられる
のだから、生活保持義務に基づく婚姻費用を抗告人に請求することは権利濫用で
ある。
なお、相手方は、長男と自分の生活保持相当婚姻費用を請求しながら、抗告人
が長男と面会することさえ拒絶している。抗告人とすれば、長男を人質にして母
子の生活費を要求されているわけで、長男の養育費相当額の支払さえ「身代金」
と実感させられる。「配偶者による子の拉致」は、まさに「身代金目的誘拐」の
構図である。相手方のこのような違法・反倫理的な行状を司法が後押しし、善良
な抗告人を迫害することは、著しく正義に反する。
よって、抗告人が支払うべき婚姻費用は養育費相当額とする決定を求める。
【添付資料】
乙9 配偶者からの暴力相談の手引(改訂版)抜粋
平成17年4月 内閣府男女共同参画局
(以 上)

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