3月25日(土)、共同親権ネットワーク(以下、Kネット)主催の講演会『離婚しても子育てしよう!単独親権、やっぱり問題』が、白金・いきいきプラザにて行われ、約50名の参加者で会場が埋まりました。
Kネット運営委員の宗像充さんと、翻訳家で男性ジェンダー研究者の久米泰介さんの二人が、壇上に上がりました。
宗像さんは、「子どもに会えない親のハンドブック」の著作など、別居後の親が子どもの養育に関われない社会を変えていく活動を、長年リードしてきた第一人者です。我が国で親子引き離しが生み出され続ける、一番の元凶は単独親権制度。今回の講演会ではその原点に立ち返って考えたい、と宗像さんは切り出しました。
Kネット立ち上げ時のスローガンは、「原則交流、実質平等」でした。昨今、家庭裁判所は基本的に面会交流をさせる方向に運用をシフトしており、「原則交流」については少しずつ成果が表れてきたと言えます。一方、離婚後に親権を得る父母の比率は2:8であり、子どもを確保できた親に親権が行くという運用には変わりありません。男女平等、父母平等の概念は、浸透したとは言えません。
単独親権下で起きる問題とは、いったい何でしょうか。離婚時に親権を失った親は、子の養育に関わる権利を剥奪されたと同然に扱われます。養育に関わりたい別居親が、精神的に追い詰められるのは言うまでもありません。また、養育費の支払いや面会交流を拒絶する親に、子の養育を放棄した責任を問うことも困難です。このような現状を変えるため、Kネットは選択的共同親権ではなく、原則的共同親権を追求していく、と宗像さんは力強く宣言しました。
続いてマイクを持った久米さんは、関西大学在学中から米国の男性権利運動に関心を持ち、関連書籍の翻訳などで活躍されてきた、新進気鋭の研究者です。日本で共同親権を提唱するKネットの理念に共鳴し、講演に参加いただきました。別居親が親として認知されない我が国の社会通念には、どういった背景にあるのか。それを考える上で、久米さんの講演は、大変参考になるものでした。
久米さんの専門分野は、マスキュリズムです。フェミニズムが女性の人権擁護主義であるのに対し、マスキュリズムは男性の人権擁護主義を指します。どちらも性差別を廃止し、男女同権を実現していこうとする点では共通しています。
米国では、初期のフェミニスト運動において、父親の育児参加は歓迎されたそうです。それによって、女性の社会進出が進むと期待されたからです。しかし、1970年半ば、フェミニストの主流派は、一転して父親の子育てに抵抗するようになります。子育てという伝統的に女性が担ってきた領域が、男性に開かれることにより、女性が不利益を被ることを恐れたのだと、久米さんは解説しました。更にフェミニストは、暴力的な男性によってDV被害を受ける女性達という構図を主張し、共同親権を否定するようになります。
これに反発したのが、Warren Farrellなど、マスキュリズムの運動家です。もともとフェミニズム運動に共感していたFarrellですが、女性活動家が男女平等でなく伝統を優先させはじめたことに違和感を感じ、男性人権主義、徹底した平等の概念を打ち出します。Farrellの著作『Father and Child Reunion』は、久米さんの翻訳により、年内に発刊される予定です。
いま米国では、フェミニスト団体の勢力は変わらず強大であるものの、マスキュリズムが学問として確立し、十分対抗できているとのこと。フェミニスト団体は、マスキュリズムの講演会場で火災報知機を鳴らしたり、講演者に唾を吐くなどの行為で対抗しているそうです。これこそフェミニストが議論で勝てていない証拠だ、と久米さんは言います。「The Red Pill」という男性権利運動をテーマにした映画が公開されるなど、メディアも盛んに活用されています。
米国と比べて、現在の日本の状況はどうでしょうか。日本の親子を取り巻く状況は米国の40年遅れなどと評されますが、まさに米国の40年前の姿と重ならないでしょうか。日本を代表するフェミニストの上野千鶴子は、一貫して共同親権に反対しています。ネットニュースには、千田由紀のような、「面会交流殺人」などと称して父親を暴力的な存在と決め付ける論調の学者が現れ、ヘイトスピーチと言える言説を撒き散らしています。父親に親権を与えると、家父長制(パトリアティ)を復活させる危険がある、というのが彼らの主張です。男性にもともと有利な社会なのだから、男性が多少差別されても仕方ないというスタンスです。そこには、フェミニズムが本来掲げる平等主義はありません。しかし、学会、メディア、政治に入り込んでいる彼らの意見は、無視されないものとなっています。
宮瀬都議
我が国の現状を変えるには、何が必要でしょうか。米国同様、まずは学問の分野で足元を固めることが重要だ、と久米さんは語りました。米国では、マスキュリストが論文を書き、学問的な裏づけをとり、フェミニストと対等に戦えるようになった歴史があります。我が国でも、海外の書籍が翻訳され、学者が増え、メディアが付いてくるようになり、そうすれば司法も変わっていくのかも知れません。久米さんには、日本のマスキュリズムの旗手として、更なる活躍を願って止みません。
質疑の様子
講演会終了後は、参加者の約半数が会場近くのイタリア料理店に移動し、久米さんを交えて懇親を深めました。私たち親子問題の当事者は、自分自身の問題に向き合うことで精一杯になりがちです。互いに支えあって活力を維持しながら、社会を変革する運動を続けていきたいものです。
(森本)