海外で上映が一部禁止!? 男性の権利についての映画『The Red Pill』、日本上映の立役者にインタビュー
海外ではフェミニストに一部上映中止に追い込まれたドキュメンタリー映画『The Red Pill』日本上映の立役者に話を伺った。フェミニストである女性監督が男性論者と対話をする内に男性差別の存在を認め、困惑と克服を経験するという。
女性の権利が声高に叫ばれる中、男性は支配者側であり加害者側であるという印象を受けることも少なくない。しかし、結婚の男女平等やシングルマザーを題材にした映画を撮るフェミニストであるキャシー監督は、女性差別に関する様々な調査を進めていく内に、男性もまた性による抑圧を受けているのではないかと感じ始める。
そんな彼女の「男性もまた被害者なのかもしれない」と揺らぐ価値観を収めた『The Red Pill』という映画が初めて日本で上映されることとなった。海外ではフェミニストの反発から一部上映禁止になったとされるこの映画。日本で上映しようとしているのは一体どんな人なのだろうか。共同親権運動ネットワーク運営委員の宗像さんに話を伺った。
宗像充 / 共同親権運動ネットワーク運営委員
宗像さんと組織の紹介
ーーこの度はオピニオンメディア「四角い世界を丸くする」のインタビューにお応え頂き、誠にありがとうございます。早速ですが、ご自身や組織の活動について紹介を頂けますか。
宗像充と申します。現在、共同親権運動ネットワークの運営委員を務めています。『The Red Pill』という映画を日本で上映することにした理由は、まさにこの運動と密接に関わっています。このネットワークは、子どもを(元)配偶者に誘拐され引き離されてしまった男性が中心となって運営しています。
誘拐という言葉を使うとショッキングに聞こえるかもしれませんが、実感としてはその通りなんです。ある日家に帰ると子どもや妻の荷物はすべて無くなっていて、彼らとの連絡がまったく付かなくなってしまい、しばらくすると離婚手続きが始まる。一度も子どもや妻と面会することもなく離婚が確定することも少なくありません。
市役所などで隠匿手続きを取られると、住所を調べることも不可能になります。これをされた側が異議申し立てをすることや、その決定を覆すような仕組みはありません。一度相手に隠されてしまうと、連絡をこちらから取る手段は殆どなくなってしまいます。裁判では一定期間以上共に暮らしている方に親権が渡るケースが多いので、これをされてしまうと当然裁判では負けてしまいます。
月に1度の面会を書面で約束していたにも関わらず、その約束が守られないようになることもよくあります。父と子の間の関係を簡単に引き裂くことが出来る現状に疑問を抱くようになりました。
ーーそこから、共同親権ネットワークの運動へと繋がっていくのですね。
私自身も同様のケースに陥り、インターネットで同じような被害を受けて苦しんでいる男性たちのグループを見つけました。そこで共同親権という概念を知りました。海外では親権というのは片方の親にだけ認められるものではなく、離婚しようともその子の両親に認められるものなのです。養育に携わることは、親の権利なのです。
そのような権利が認められている国では、子どもに会わせない(あるいは会わない)ということは法廷侮辱罪などで収監されることすらあるのです。これを知って、私は日本でも声を上げる必要があると感じました。
そこから、市に陳情を出して署名活動を行い記者会見も開きました。それが記事になると、驚くほどの反響があったんです。同じようなケースで苦しんでいる人達から沢山の連絡が届き、それに驚くと共に徐々に運動という形を取るようになっていきました。
記者会見に来て下さった記者の方もこの現状は全然知られていませんでした。裁判所で正しい判断がなされていて、子どもに会えないのは問題のある親だけだろうと思われていたのです。実際にはそんなことはありません。非親権者と子どもが会うことに非協力的な親権者の場合、二人を引き離すことは簡単です。
それから10年程経ち、現在に至ります。共同新運動ネットワークでは、同じ経験をした人同士で集まり様々な相談をしたり、共同親権を法制度化するためのアドボカシー活動などを行っています。
ーー具体的にはどのような理念で活動しているのでしょうか。
私たちは、親どうしが別れても、子どもの成長に双方が引き続きかかわる、共同親権・共同養育の実現を求めて活動をしています。親どうしの都合に左右されることなく、ずっと親子であることを実感できるべきだと考えています。
しかし日本では、夫婦が別れるとき、父親か母親の一方に親権を定めなければなりません。そのため、親権を持たない親が子どもの養育を続けたいと思っても、その権利が保障されず、一切子どもと会うことができない人が多くいます。
子どもの親として、本来立場は対等です。にもかかわらず現状は、親権を持たない親は、親権を持つ親に許可を取り、子どもに会わせてもらう必要があります。そもそも、この「親権を争い、どちらかが負ける」という構図が正しいのでしょうか?
私たちの訴えは大きな反発を受けました。「男が子育てを主張するなんて」「バックラッシュだ」「会えない親に問題がある」というのです。こういった主張の背景に、男女の性的分業をめぐる差別感情があると私たちは気づきました。
「男性(父親)だから」「女性(母親)だから」という無意識の偏見を取り除かない限り、子どもが両親の愛情に身を委ねられる社会はできません。この問題を提起するため、米国の話題作『The Red Pill』を上映することにしたのです。
The Red Pillの持つ魔力
ーー『The Red Pill』について、その内容を簡単にご紹介ください。
『The Red Pill』はフェミニスト(女性の権利を主張する立場)の女性監督キャシー・ジェイによって製作されたドキュメンタリー映画です。共同親権運動の活動をしている中で、『男性権力の神話 <<男性差別>>の可視化と撤廃のための学問』を訳されたマスキュリスト(男性論者)の久米泰介氏から紹介頂いて存在を知りました。
映画は、フェミニストであるキャシー自身が、マスキュリストたちへインタビューを行いながら進んでいきます。その中で、彼女は「女性が弱い、不利な立場にある」という自らの信念に疑問を持ちはじめます。男性たちもまた、社会の中で犠牲を払い、不利益を被っているのではないかと気づきはじめたのです。
男性は女性と比べ、圧倒的に自殺率が高い。危険な仕事に従事している割合が多い。暴力や誹謗中傷に晒され社会的に守られていない。そして、子育ての機会を奪われ、わが子と暮らすことができない。このような男性たちの悲痛な声に、キャシーは胸を打たれます。
過激なフェミニストの主張(筆者訳:少年たちは愚かだ。彼らに石を投げつけろ!)
男性の権利のために声を上げる活動家、大学でのマスキュリズムの講義に対して、会場に押しかけ抗議活動をする過激なフェミニスト、そして行き過ぎたフェミニズムに反対する女性たち―。
社会的・経済的に、強いのは男性? それとも女性? この映画は、本当の男女平等とはどういうことなのか?を問うものになっています。
ーーまさに欧米でも日本と同様、女性の権利の拡大が叫ばれる中で男性の被害者性が置き去りになっているわけなんですね。
そうですね。私自身、自分のことをマスキュリストとは認識していませんし、フェミニズムを打倒せよ! といったことを考えているわけではありません。しかし自分が女性だったら子どもと引き離される苦しみを受けなくても良かったのではないかと思うところはあります。男性にだけ生じる被害ならそれは差別なのではないかと。
そう考えてみると他にも様々な形の男性差別があることに気づきました。映画の中でも、キャシーはDVのでっち上げ、性的被害などリプロダクティブ・ライツ(生殖や子育てに関わる権利)について男性特有の問題があることに気づいていきます。
タイトルであるRed Pillというのは、映画マトリックスに出てくる言葉を参照にしているそうです。Blue Pillを飲めば今までの常識の世界のままで生きていける。でもRed Pillを飲むと今まで見えてきたものとは全く違う世界が広がっていく。それは受け入れがたい現実かもしれない…。あなたはどちらを選ぶか、と決断を求められます。
フェミニストからすれば、男性は加害者であり支配者。その構造を変えるために彼女たちは運動をしています。キャシー監督自身も元々はそういう目で社会を見て映画を撮ってきたわけです。それが今回の映画では時々ビデオ日誌をつけていて独り言を言うんです。
「自分は男性達に騙されているのかもしれない。彼らの運動の片棒を担がされるために、何か彼らにとって都合の良い主張を聞かされているのかもしれない。こんなに男性側も被害を受けていたなんて信じられない…」と不安になるほどに、彼女が見る世界には男性の被害も沢山あるわけです。彼女の正直な感情の吐露、心が揺れ動く様子が映画の面白さの1つになっていると思います。
ーー素直にすぐ認めるわけでもなく、とはいえその現実から目を逸らすわけでもない態度には凄く共感出来るものがあります。ところで海外では一部上映禁止という話も伺いましたが、これはどういう経緯なのでしょうか。
私もそれほど詳しいわけではないのですが、オーストラリアのメルボルンのPalace Kino Cinemaでの2016年11月6日に予定されていた初回講演がフェミニストの2000以上の請願で一度中止になっています。その後5000のカウンター請願(上映中止をやめる趣旨の)が出され、2017年にようやく公開されたようです。フェミニズムにとっては嬉しくない内容ですし、反対する理由も最もかもしれません。
私達はクラウドファウンディングを行って資金を集めました。翻訳や上映に費用が掛かるため行ったのですが、目標30万円のところ1ヶ月で50万円もの応援を頂くことが出来ました。日本でもこういう考え方に共感する人は多いのだなと勇気づけられましたね。(クラウドファウンディングのページはこちら:既に終了)
2018年5月5日(こどもの日)、6月17日(父の日)、7月21日(共同養育の日)にそれぞれ東京、京都、東京で映画を上映することが出来ることとなりました(スケジュールの詳細はこちらから)。
ーー弊メディアではジェンダーについて様々な意見を取り上げています。長年インターネットでも声を上げてきた宗像さんから見て、こういったトピックの扱いはどのように変遷してきたと感じますか?
そうですね、議論を俯瞰して眺める立場ではなかったですが、男性の権利についての運動が90年代にあったことは記憶しています。更に父親の運動となると2000年代頃からでしょうか。LGBTの権利などが1970年代頃には主張されていたことを考えると、かなり新しい動きですよね。
高度経済成長期を支えていた男性たちが、その重荷に「もういやだ、男らしくではなく自分らしくありたい」という悲鳴を上げたのが1990年頃だと言えると思います。それに対して「男らしくない」「めそめそするな」といった批判も非常に多かったですね。でもそのような意見もまた、女性差別と同根の問題に感じます。
男性が女性の権利運動に違和感を覚えたのは、恐らく職場というのが「自分たちのテリトリー」だったからだと思うんです。女性は口を出すな、と。でもそれはやっぱり間違っていた。
それと同じように、子育てとか家庭というのが「女性のテリトリー」だと無自覚に認識している人は多いのではないでしょうか。それが、男性が家庭や子育てに口を出すことについて強い違和感として現れていると。自分たちの活動に対して女性からの風当たりはかなり強いです。「子育ては父親の権利でもある」と主張するとバッシングを受けますね。
読者の方へメッセージ
ーー権利に関する言説は、時代と共にどんどん移り変わっていくと思います。宗像さんの主張もいずれ当然のこととして議論されるようになるのかもしれませんね。最後に、読者の方へメッセージをお願い致します。
これまで男性たちは「会わせて欲しい」という運動をしていました。しかし、そこから徐々に子どもと関わることにおける男女の格差の是正に移っていき、それがまさに今でいうジェンダー運動でした。
現行の法律になんとかしてもらおうと思っているのではなく、今の法律や戸籍制度というものが自分たちが自分らしく子どもに関わり続けることに対して障害になっていると思っていて、単独親権と戸籍の撤廃をしたいのです。
これらを考える上で、この映画が新しい視点を日本社会に持ち込んでくれると期待しています。男性の側が不利益を被っている分野というのがあるということは、誰かが言わないと誰にも気づかれません。実際、私自身も映画を見て新しく見えてきたものもありました。
アメリカの男性運動も、子どもと引き離された男たちが主体になっている部分があります。運動の成り立ちや今のテーマには日本にも共通する部分が多いです。女性の権利のみならず、男性の権利にもまた関心を持っている方は是非ご覧頂き、皆さんと一緒に考えていきたいです。
『The Red Pill』日本初上映のスケジュール詳細はこちらから。
Editor’s Note
SNS上でジェンダーについての様々な意見を取り上げていく中で、私自身もまさにキャシー監督と同じような感覚を覚えた。最初は女性の権利や多様性が侵害されているケースを追っていたのだが、徐々に加害者であるはずのマジョリティ(例えば男性)もまたこの社会で差別を受けている側面があることがあることに気づいたのだ。
そんな中で、男性の権利についての映画が上映されると聞いて早速主催者の方に連絡を取りインタビューをさせていただいた。彼の語り口は慎重で、ややもすると「アンチ・フェミニズム」と取られかねない主張の中で出来るだけ誤解をされないように話をしている印象を受けた。
弊メディアもまた、そのようなスタンスを取っている。男性女性に関わらず、その性に基づく社会的抑制から少しでも自由になるための思想、それをジェンダー論と呼んでフェミニズムやマスキュリズムと区別している。
どんな人も、差別や抑制の対象になりえる。加害者にも被害者にもなりえる。だからこそ、特定の性を批判するのでも擁護するのでもなく、誰もが生きやすい社会にするために様々な意見を整理して今後も発信していこうと考えている。
映画『The Red Pill』を見に行くのが実に楽しみだ。女性の権利に限らず、様々な立場の意見を取り入れて自分のバランスを取りたい人は是非見に行くことをお勧めする。
『The Red Pill』日本初上映のスケジュール詳細はこちらから。